Q.
結婚して8年、幼稚園に通う娘が2人います。共働きですけど、家事育児の分担や当番は決めてません。夫は子どもの面倒はよく見てくれますけど、家事のほとんどは私って感じです。職場の雰囲気や立場もあり、子どもの具合が悪い時などは私が休暇を取ることがほとんどで、家事も私ということになります。夫は家事育児は平等にと言ってるくせに全然違うんですよ。先日、家族でファミレスに行った時も、下の娘がちょっとぐずったら「子ども泣かせるな!」「外に連れ出せよ」と強い口調で私に言うんです。私が泣かせたわけじゃないし、私だって泣かせたくはないけれど、泣いてるんだからしょうがないじゃないですか!「ふざけんな!おまえだって親だろ!」って言ってやりたいです。
A.
「一筆啓上 火の用心 お仙泣かすな 馬肥やせ」という夫から妻に送った日本一短い手紙を思い出しました。この手紙は、徳川家康の家臣、本多重次が戦場から自分の城である丸岡城(福井県にある国の重要文化財)を守っていた妻に送った簡潔な表現の中にも温かい愛情を感じさせてくれる名文として、今でも手紙の手本とされています。あなたが夫に言われた「子ども泣かせるな」と決定的に違うのが次の2点です。まず、重次はあなたの夫と違い、戦場で戦っている最中で、妻や子どものそばにいてやることができない状況であったこと。次に、同じように「泣かすな」と命令形で伝えてはいますが、重次はその前に「一筆啓上」(実際は「一筆申す」だそうですが、のちに語呂や重次の気持ちを慮って「一筆啓上」が一般化したのではないかと思います)という1文を入れているということ。「一筆啓上」とは、当時の上下関係を表すのに、相手に対して最上級の敬意を払う時の文章です。その4文字の後、最初に防災が十分でない時代、火の用心を頼み、続いてお仙(嫡子の仙千代。当時3歳)を大切に慈しみ育ててくださいと語りかけ、最後に戦場で貴重な働きをする馬の手入れを頼んでいます。自分が妻の元にいてやれず、やむを得ずワンオペをさせている妻を信頼し、気遣った心のこもった「泣かすな」になっています。あなたの夫は、子どものそばにいて自分で対応できるにもかかわらず、妻のあなたに「泣かせるな」「外に連れ出せ」と命令しています。「お願い」ではなく、「命令」です。この命令形は「男言葉」にのみあるということを考えたことがありますか?もし、ファミレスであなたと夫の立場が逆だとしたら、「子どもを泣かせないで」「外に連れ出して」のように「お願い」の言葉になりますよね。「お願い」なら断ることもできますが、「泣かせるな」「連れ出せ」という「命令」に対し「断る」ことは「逆らう」ことになりますから、かなりのハードルの高さです。夫の言葉にムッとしたとしても、結局、従うことになります。あなたたち夫婦の間で、日常的にこういう会話が行われているのであれば、男女平等にはほど遠い状況です。私たち女性は、幼いころから「腹減った」と言えば「〝お腹が空いた〞と言いなさい」、「〜しろよ」と言えば「〝〜してください〞と言いなさい」と注意されてきました。あなたの気持ちをはっきり夫に伝えてみてください。