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男と女のQ&A 恋愛編・夫婦編

2023年06月20日 case110【夫婦編】「おっぱい臭さで気持ちが萎えた?」

Q.
結婚して6年、3歳の息子がいます。妊娠前は外ではいつも手を繋ぎ、家では身体のどこかに触っていないと落ち着かず、夜はほぼ毎日抱き合っていました。毎日一緒にいられることがすごく嬉しかったんです。ところが初めての妊娠は不安が大きくセックスレスになり、出産後も育児の大変さからセックスレスが続いていました。息子も1人で寝てくれるようになり、私はセックスレスを解消したいのですが、夫は私を求めようとしません。疲れてるのかなあと思っていたのですが、先日自慰行為をしている夫を見てしまいました。そのことを夫に話すと「性欲あるから」と言います。「じゃあ何で私とはしないの?」と訊くと「授乳してたときのおっぱい臭さで気持ちが萎えた」と言うんです。

A.
犬はお互いのニオイを嗅ぎ合って、そのニオイから相手の情報を得ていると言われます。もちろん、犬以外の動植物もニオイを発することで花は虫を集めて受粉を促し、動物は異性か同性か、繁殖期かどうかを確かめたりしています。新型コロナウイルスで臭覚障害になった人は「情報をシャットアウトされて白黒の世界にいるようだった」と言っていました。
ニオイ物質は40万〜50万種類も存在すると言われますが、私達はそうした数多くあるニオイを嗅ぎ分けていることを意識することはほとんどありません。ニオイに関する実験で、10人の女性に一晩Tシャツを着て寝てもらい、そのTシャツのニオイを10人の男性に嗅いでもらったところ、6人の男性が好ましいニオイとした3人の女性のTシャツは排卵期の女性のものだったそうです。
そのように動植物から人に至るまで、ニオイから多くの情報、影響を受けているのです。そして、あなたの夫のようにふとした瞬間に、ある記憶がニオイと共に鮮明に蘇り、気持ちを揺さぶることがあります。ニオイは情動や記憶を司る脳の器官にダイレクトに伝わるので、そうしたことが起こります。人間は、よほどのことがない限りお互いのニオイを嗅ぎ合ったりすることはせず、相手の見た目、発する言葉といった視覚、聴覚情報からお互いを認識していますが、あなたの夫にとっては、「おっぱい臭さ」とあなたの妊娠、出産とそれに続く授乳期間の禁欲期に結びつきトラウマになっているようです。
女性の多くは授乳している期間、定期的な排卵が戻らないと言われています。自分の体内から赤ちゃんのために母乳を出すという難事業やそれに伴う育児の大変さなどで、ホルモンの分泌が変化している時期でもあります。新しい生命の誕生に大奮闘しているあなたを見て、夫は嬉しくもあり、寂しくもあったのでしょう。ニオイの捉え方はニオイそのものよりも、それをどう認知するかによって変化するので、「おっぱい臭さ=あなた」となっていると考えられます。ニオイは実際の状態を伝えるツールとしてだけでなく印象や雰囲気を左右してしまうのです。仲の良かったお2人です。お子さんの卒乳と成長を共に喜び、育児をねぎらう気持ちになれれば、おっぱい臭さの印象も変化するでしょう。夫の気づかない程度にオーデコロンなど使い、「おっぱい臭さ=あなた」という夫の中にある情報を変える努力をしてみるのもいいでしょう。

取材協力 臨床発達心理士 大関洋子先生

臨床発達心理士 大関洋子先生

浦和カウンセリング研究所所長
プロフェッショナル心理カウンセラー
上級教育カウンセラー
1941年生まれ。埼玉大卒業後、高校で国語・音楽を教える。
結婚、出産、男女の共生等の話題で新聞・TV・雑誌等にも登場。
著書「この子たちを受けとめるのはだれ?」好評発売中!