Q.
10年ほど前、夫は単身赴任していました。1年ちょっとの予定だったので子どもの受験のことも考え単身赴任にしたんです。赴任して半年したころ、大好きなミュージシャンのコンサートが家の近くであり、1度くらいいいかなと思って出かけたんです。久しぶりのコンサートは楽しくて楽しくて…。罪悪感もあったんですけど、1度だけだからと自分を納得させました。ところが、そのあと次のコンサートはどこであるかネットで検索するようになり、もう一回くらいいいよねと言ってる自分がいました。夫が単身赴任から戻っても、その気持ちが抑えきれなくて、何度かコンサートに出かけました。先日夫に「また行きたいんだけど」と話したら「何考えてるんだ!」と怒鳴られてしまいました。
A.
生活や心身の健康を脅かしているのに、その行動をやめられない、コントロールできないという状態を「依存」と言います。最近マスコミでも「依存症」という言葉が使われるようになりました。私達の心身の健康や生活を脅かす依存の対象は大きく分けて2つあります。一つは精神に作用する物資(アルコール、覚醒剤、ニコチンなど)を摂取する物質系の依存。もう一つは非物質系の依存(ギャンブル、過拒食、インターネット、浪費、自傷行為、セックスなど)。あなたは「依存症」と診断される基準ではないのですが、ご自身や家族の生活に困ることが生じている状態のようなので「有害な使用(乱用)」という言葉に当てはまります。大事なことは「依存症」かどうかではなく「コントロールの喪失」「分かっているのにやめられない」という点です。夫に「何考えてるんだ!」と怒鳴られたとのことですが、あなたにとってそれほどでもないと思う回数でも、夫にとっては回数が頻繁で、生活や経済に支障を来すということなのでしょう。ただ、これは夫や家族が怒鳴ったり怒ったりして治るものではありませんし、あなたの意志が弱いわけでもないのです。
久しぶりに大好きなミュージシャンのコンサートに行く前、とても長い期間それを我慢して、あなたは夫と子どもに尽くしてきましたよね。あなたの生きてきた背景には何かの困難や苦痛があり、それと闘って生き延びてきたのです。「脳」が報酬(ごほうび)を求めていて、久しぶりのコンサートなどで気分が高揚し、脳内にそれを求める回路ができ、脳がごほうびを求めて自分では制御できない状態が働いてしまうという仕組みが、最近少しずつ分かってきています。ここで大切なのは「報酬」を必要としている「心の痛み」に向き合い、どうすればそれを軽減できるか考えることです。「やめられない」のには理由があり、自分の抱えている「生きづらさ」の正体、自分の奥底にある「本当の感情」に気づいてあげてほしいのです。
完璧じゃない自分でもいい、何もかも自分が責任を負わなくてもいい、自分を許してあげる、誰かに助けてほしいと言える、誰かに何かを委ねられるようにする、誰かに本当の気持ちを言えるようにする、この「誰か」は「夫」であってほしいですね。これはほんの一例の回復の方法です。「依存」は「生き方」そのものに関わっています。新しい生き方を夫と共に手にしてください。